■文章編14      ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓      ┃ ┃      ┃ コンピュータと教育 ┃      ┃ ┃      ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ ここでは,コンピュータと教育に関する用語をいくつか取り扱うことにしま しょう。 僕自身は,決してその方面の権威というわけではないのですが(正確にいえ ば,どの方面の権威というわけでもない・・・・),「教育市場に強いTOWNS」 のイメージもでき上がりつつあるところで,いずれここで取り上げるような言 葉の知識も必要になるだろうと思われます。 さて。 学校,塾,あるいは自宅の勉強部屋等々といった,教育の現場におけるコン ピュータの位置づけなんですが,それには大きく分けて3つのシチュエーショ ンがあると思われます。それぞれについて,簡単に説明してみましょう。 わかりやすくするため,なるべく具体的なたとえを用いたいのですが,公立 の小・中学校などを例にすると,実現している・していない,あり得る・あり 得ない等々,なんというか,うざったい問題が出てきかねませんので,学習塾 とか,そういった世界を舞台に話を進めてみましょう。 ■CAI 「CIA(Central Intelligence Agency,〔アメリカ〕中央情報局)」で はありません,「CAI(Computer Aided Iinstruction,もしくはCompu ter Assisted Iinstruction)」です。コンピュータ支援教育,コンピュー タの力を借りて行う教育,といったような感じでしょうか。 みなさんは「教育の現場で活躍するコンピュータ」云々と耳にしたとき,最 初にどんな状況を思い浮かべますか? おそらく,たくさんの人がすぐに想像するのは,白い光に満ちた教室で,整 然と並べられた机の一つひとつにパソコンとディスプレイが配備され,その前 で子供たちがドリル学習に勤しむ姿ではないでしょうか。 画面上には算数,理科などの問題が表示され,子供たちはさまざまな演出を 施された解説をながめ,問いを読み,キーボードやマウスを使って解答を入力 していきます。プログラムによっては正答・誤答に対して音や色によるイベン トがあったり,終了時に正答率を表示してくれたりなどの違いはありますが, 本質的にはマークシート式(なにしろ記述式の質疑応答というのはどうしても パソコンレベルには荷の重い処理ですから,自然と解答選択型が多くなります) の問題の数や,練習の回数をこなすことを目的とするシステムが多いようです。 こういった,生徒の自習,独習用の,プログラムによる教育のことをCAI というのです。 CAIタイプのシステムの,現在での最大の問題点は,教材に使われるプロ グラムやデータの多くが,今説明したように「ドリル」すなわち「反復練習」 の水準をなかなか越えられないことでしょう。教育の理想の形態は,教師と生 徒が一対一対応であることだといわれるのに,ドリルというのはある意味で教 師不在の教室で自習させるみたいなもので,これでは無駄ではないまでも,学 習のジャンルや効果が極端に限定されてしまいます。 このため,コンピュータを使う教材に「エキスパートシステム」といって, 人工知能(AI)研究を応用したシステムを導入しようという動きもあります (難しい言葉を使うと,「知的CAI」という)。 ちょっと話がそれてしまいますけど,少し説明しておきましょう。エキスパ ートシステムというのは各分野の「専門家」が自分の仕事を遂行するうえで長 年の間に構築してきた知識や技術を,コンピュータの扱うデータとして蓄え, 当人以外の人間でも使えるようにしようという試みのことで,すでに,製造業 における生産管理,機械などの修理システム,あるいは(ちょっと怖いような 気もしますが)医療機関などで活用され始めています。 教育の現場でも,ドリル用の問題集以上に必要とされているのは,教師が実 地に行うであろう教育技術的ノウハウや,生徒の正答率・誤答の傾向などを元 に判断して指示を出したり,次の問題を出したりする,柔軟かつアクティブな システムでしょう。そういったシステムでは,生徒のレベルや問題の解き方に 応じて出題の内容や難度を変えていくような出題が可能になる,というだけで なく,ひとたびシステムが構築されてしまえば,教壇に立つ教師(この場合, 教室でそのコンピュータを操作して生徒に問題を解かせるオペレータですね) が,必ずしもその教科に精通していなくてもよい,という人材経済的なメリッ トもあります。 各地に支局をもつ塾組織なら,中央の研究セクションでそのプログラムが構 築されれて,各支局がその恩恵に与かり,また各支局でのデータがフィードバ ックされてデータの完成度が高まる,といったことも可能になってくるわけで す。 もっとも,こういったエキスパート教育システムの開発は,まだまだスター トラインにあるも同然で,高度なシステム実現への道のりはなかなか遠そうで す。 また,一方では,エキスパートシステムほど遠大な目標を立てずとも,カラ フルな画面やCD-DAのクリアな音声,あるいはゲーム的な「楽しみ」の要 素を使って生徒の集中度・持続度を高めようとする教材システムも発表され始 めています。さらに,グラフィックツールを使って自由に絵を描かせたり,楽 譜型ミュージックツールを用いて自由に曲作りをさせたり,といった情操教育 寄りの試みもなされています。CD-ROMが標準添付で,グラフィック,サ ウンド機能の豊富なTOWNSでは,とくにそのようなソフトの可能性が高い といえるでしょう。 ■CMI ところで,学習塾でコンピュータを導入する理由というと,前項のようなC AIを実施するためだけ,とは限りません。 たとえば,先ほども例に出した,各地に支局のある塾会社の場合,定期的に 実施される実力テストの成績など,各種の情報をネットワークで収集し,分析 したり,公表したりといったことにコンピュータを用いることも少なくないで しょう。偏差値の扱いなど,まさしくコンピュータ向きの仕事ですし。 この,教育の「管理」にコンピュータを使うことを,「CMI(Computer Managed Instruction)」ということがあります。CAIではコンピュータ に向かうのが生徒であるのに対し,CMIは教師サイドにあるといった感じで, manageという言葉が,その実情をほとんどストレートに表していますね。CM Iには,「採点データ処理」「学習進度管理」「教師への情報提供」「教材情 報管理」などの機能が必要とされますが,広義では,たとえば学校の先生が, 自分の担任するクラスの生徒の住所,氏名,家庭環境,出席日数,成績等々を ファイルにデータベース化して管理することも,このCMIに含まれると考え てよいでしょう。 ただし。それなら,宿題のプリントや抜き打ちテストの問題をコンピュータ (ワープロ)で作成したり,父兄への手紙を印字したりするのもCMIなのか どうか,というと,これはよくわかりません。 ■コンピュータリテラシー さて。学校であれ,塾であれ,企業であれ,コンピュータを扱うとなると, コンピュータそのものについての知識が必要です。たとえば,パソコンで何が できるか,という基本的知識。また,キーボードの打ち方,日本語入力のノウ ハウ,フロッピィディスクの扱い,などなどの基本的な操作法。これらの知識 があるかどうかを,「文字を読み書きする能力」を意味する「リテラシー(L iteracy )」という言葉から,「コンピュータリテラシー(Computer Liter acy)」といい表します。 実は,昨今のコンピュータ教育の方向は,最初に述べたCAI中心から,こ のコンピュータリテラシー教育中心に進みつつあるようなんです。というより, コンピュータを取り扱えることが一般常識となりつつある今,その学習が社会 的にも必須とみなされるようになってきたということでしょうか。 その顕著な例が,文部省の新学習指導要領に従って '93年度から実施された 「情報基礎」という科目の内容でしょう。これは,義務教育のうち,中学校の 「技術・家庭」の選択科目の1つで,その目的は,「コンピュータの操作を通 してその役割と機能について理解させ」,「情報を適切に活用する基礎的な能 力を養う」等とされています。これは明らかに,「中学校にCAIを導入しな さい」ではなく,「中学校でコンピュータリテラシー教育を進めなさい」とい う意味ですね。 この「情報基礎」という科目で,実際にどのような教材(教科書)が提供さ れ,またどういった授業がなされるか,などなどはたいへん興味深いのですが, それについてはいずれ,教育の現場で活躍されている方々に本誌上でレポート をお願いしたいものです。 ■オーサリングシステム 教育にコンピュータを活用する場合,当然のことなのですが,たとえばCA Iを行おうとするなら,授業用のプログラムやデータを準備しなくてはなりま せん。そして,それは,多くの場合,出来合いの既製品では柔軟性に欠けます し,また,教育そのものに精通した人がプログラムにも精通しているとは限ら ないため(というか,そんな例はかなりまれなため),プログラミングの専門 家でなくても簡単にコンピュータ上の教材を開発できるシステムがなくてはな りません。このシステムのことを,「オーサリングシステム(authoring syst em)」といいます。 もともと,authorという言葉には作家,著述といった意味があるのですが, オーサリングシステムは,学習の内容,生徒の対応,それに対するコンピュー タの対応などを簡単に構築していくことを目的とする記述システムとでもいえ ばいいでしょうか。なにやらたいそうなもののようですが,たとえばTownsG EARを活用してCAIの教材システムを構築したなら,その場合TownsGE ARがオーサリングシステムだということになります。 このオーサリングシステムは,とくにコンピュータで扱うデータに音声や画 像の占める割合が大きくなる現在,「マルチメディア」(ごく簡単にいうと, テキスト,音声,静止画,動画などのデータを多元的に組み合わせること)の データ作成ツールとしても脚光を浴びてきているようです。